元治元年【春之拾】

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    私の頭上より少し高く上がった刀は、やはり真っ直ぐ私の手の中に落ちてきた。 大刀なのだからかなりの重さがある。 「分からないでしょう?でも、素敵だと思いませんか?」 本庄さんは私が何を思ったのか察した様に話しだした。 「沖田さん、私はこの子達に刀は人を守る為の物だとそれだけは厳しく教えてきました。この刀はこの子達を守る私のたった一つの力です。でも、同じ笑顔を見れるなら誰も傷付かない鉄の方がずっとずっと素晴らしいと私は思うんです。今はその準備をする厳しい時代なんです。いつか生まれる沖田さんの血を継ぐ命の為に、その命が笑顔を絶やさず居れる為に私達は生きて生きて戦うんです…殺す事が、殲滅する事が、消してしまう事が全てじゃありません、沖田さんの人柄が一つの希望を救う事があるんです…断ち切る鉄と繋ぐ鉄があるのと同じで、断ち切る人間と繋ぐ人間がいます…」 本庄さんの言わんとする事が、受け止めきれない。 そんな未来を私は考えた事など無かった。 私はいずれ、誰よりも早世する。 ならば誰よりもこの刀を振るうだけだ。 そう思ってきた。 「私は断ち切る側の人間です」 本庄さんの話に思わず口を挟んでしまった。 すると彼女は大刀を腰に差し私に近付き、手を伸ばしてきた。 「沖田さんは間違いなく繋ぐ人間です」 真っ直ぐに私の胸を指差し本庄さんは優しく微笑んだ。
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