元治元年【春之拾】

22/24
前へ
/554ページ
次へ
    「近藤さん、あんた…」 「分かってる!総司にあんなに酷い事を言って傷付けてしまった…本末転倒かもしれん…でも!!!生きて欲しい…笑っていて欲しいんだよ、大切な家族なんだ…刀を握る事が全てじゃない、今は辛いかもしれない、二度と私と顔も合わせてくれんかもしれない、それでもいいんだ…総司が生きていてくれるなら、私にはそれが一番なんだ!!!」 泣きながら拳を握り締める近藤さんの後ろ姿に、私は諦めが付いた。 私は、京に行ってはいけない。 そう、覚悟が出来た。 でも、左之さんと永倉さんは私が行かないなら京には行けないと言い張り、土方さんも私を連れて行く事に概ね賛成だった様で、近藤さんは出立する五日前に私に京へ一緒に来なさいと仰った。 近藤さんのあの夜の言葉を聞いてしまった以上、近藤さんが私に京へ一緒に行ってもいいと仰って下さった以上、私は命尽きるまでこの刀を振るうと堅く誓った。 恩義に報いる為に。 その覚悟が、私の恐怖を全て覆い隠していた。 今日、この瞬間まで。
/554ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5137人が本棚に入れています
本棚に追加