元治元年【春之拾】

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    「沖田さん、貴方が生きる事で変わる事があります。貴方の未来は勿論…近藤さんの未来も土方さんの未来も新撰組の未来もこの国の未来も全部、沖田さんと繋がって変わるんです…沖田さんが生きた証はその刀ではありません。その刀で守り繋いだ未来が沖田さんの生きた証です」 私は膝を付き、本庄さんの右手を両手で握り泣いた。 「近藤、さんの!近藤さんの為に!この刀を、握ると…決めたんです!私なんかの為に、泣いてくれる人だから!!!私なんかの事を想ってくれる人だから!!!」 今まで口に出来なかった言葉。 口にしたら揺らいでしまいそうで、それも恐かった。 でも、伝えたかった。 きちんと言葉にして伝えたかった。 有難うございます、と。 「ちゃんと、伝わっていますよ…そうでしょ?近藤さん」 「総司…」 本庄さんの言葉と、聞き慣れた私の名を口にする声。 咄嗟に顔を上げると、御影堂門の柱に手を付いて如月の夕暮れに汗をかいた近藤さんが肩で息をしていた。 「近藤さん何で、此処に…」 「走って行ったのに、日が暮れても戻って来ないから、探しに来たんだ…それより総司、お前…」 頭が真っ白だった。 私を心配して探しに来てくれたか事もそうだが、今の話を聞かれてしまった… 「あ、あの…」 「総司、すまなかった…本当にすまない、私の家にはお前の病をどうにかしてやれる金が無かった…京に行けばきっと無理を押すに違いない、だから連れて行きたくなかった…生きて欲しかったんだ…なのに、やはりお前をこんなに苦しめていたんだな」 近藤さんは涙を零し門の下に膝を付いた。
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