元治元年【春之拾一】

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    「しかし…」 「分かっておる…だからこそ儂は此処へ来た、坊が望む日の本を実現させる為に」 家茂が望む日の本? 公武合体ではなく? 「あの子供…」 「終わらせる気だ…」 鈴木永嗣は伏した目を完全に閉じ、目尻に薄く涙が滲む。 家茂の願いとは… 自らの代で徳川幕府を閉幕させる事だった… 「……本気か?」 「あぁ、本気だ」 確かに、数年後には徳川幕府は消えて無くなるが、それは家茂の死後、十五代慶喜の代で無血開城する…家茂の死を待つ訳では無いが年単位で歴史が動き始めてしまった。 だが、この流れを不意にしたらとうなる? 又と無い好機と呼べるのではないか? 引っ掛かる点は余りにも多い、しかし…迷っている暇が無い。 後戻りなどとうに出来ない事くらい分かっている。 なれば、後は進むのみ。 どれだけの命を私は繋ぎ留める事が出来るかは私の記憶とその信憑性の高さと応用力だ… 「鈴木永嗣、……、………、……」 「…………」 私は鈴木永嗣にある事を頼むと深く頷き、ゆっくりと立ち上がると彼は来た道を歩き出した。 私は涙を拭い鈴木永嗣を目で追う沖田さんの背を見据える。 四ヶ月以内で沖田さんの病状を小康状態まで抑え込む。 それが無理なら、私が池田屋に討ち入りをする。
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