文久三年【春之壱】

29/35
前へ
/554ページ
次へ
    透は少し拗ねた様に頬杖を突いていた。 「しけた面すんなっての!顔洗いに行くよ、今日は沖田さんが街を案内してくれるんだしさ!」 立ち上がり透の頭を撫でて歩き出す。 「撫でんな!!あ、待てよ師匠」 小走りで右隣を一歩下がって歩く 透の定位置だ。 何時もなら左側には幸人がいて更にその両隣を慎一郎と流星が歩く。 三人は何処にもいない… 「…はぁ」 「師匠ため息止めろ、俺まで不幸になる」 無意識に出たため息に透が私の脇腹を肘で小突いた。 「相変わらず可愛くねぇ弟子だな」 苦い顔でぼやきながら食事を始める。 「おはようございます!本庄さん早阪くん」 「おはようございます沖田さん」 「おはようございます」 沖田さんは楽しそうにしている。 「朝餉が終わったら出かけますか?近藤さんに御駄賃貰ったんでお団子食べましょうね!」 沖田さんはたぶん二十歳くらいなのだろうが表情仕草は透と大差が無く喜怒哀楽がはっきりとあって人懐っこい為、余程私の様に捻くれていなければ何をされても悪い気はしないが、透はあまり人の好き嫌いを顔には出さないのに先程の山南さんの事もあってか心中穏やかではない様だった。 「わざわざ付き合わせてしまってすみません、よろしくお願いします」 私が頭を下げると彼は恥ずかしそうに良いんですよと手を振った。 それから一度部屋に戻り門に行くと沖田さんは私の左側を歩いて案内してくれた 。
/554ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5137人が本棚に入れています
本棚に追加