文久三年【春之壱】

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    外を歩き何日か振りに街並みを見た。 大きな長屋がずっと連なり何だかテレビで見る時代劇にそのまま入り込んでしまった感覚だ。 私も透も沖田さんの話を聞きながらキョロキョロと落ち着き無く見て回る。 気付いた事はテレビで見るよりも道幅は広く、時計で言えば今は朝の九時前位なのに通りは店が開き行商等で賑わっている。 「此処が簪屋で反対が刀屋……あっちが飛脚で、向かいの和菓子屋のみたらし団子が絶品なんですよ!一回りしたら帰りにお抹茶と一緒に頂きましょうね」 沖田さんの案内を一語一句洩らさず頭に入れ街並みを見て楽しんだ。 京都はやはり気品が有り何処と無く静謐さを街人達からも伺えた。 動作の一つ一つに礼節を重んじた高貴な気位は彼等をより一層煌めかせていた。 「京は、美しいですね」 「本庄さんもそう思いますか?私も京は結構気に入っているんですが…土方さんが……」 沖田さんは苦笑い気味に皆までは言わなかった。 東夷をまだ気にしているのか意地になっているのか…土方歳三と言う男は江戸っ子と言えば聞こえは善いが改めて頑固者と認識出来た。 「まぁ人それぞれですよ」 私も土方さんを思い浮かべ苦笑いになると珍しく透が口を挟んだ。 「俺的には京って師匠似合わねぇよなぁ」 「ほぉ…どういう意味か言ってみろ、くそガキ…沖田さん刀貸して下さい」 「はい、良いですよ!」 沖田さんは快く刀を貸してくれた。 「ちょっと待った!!俺別に師匠の事じゃじゃ馬とかって思って言った訳じゃ…」 「じゃじゃ馬ねぇ…?」 「すいませんしたぁ!!!!」
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