文久三年【春之壱】

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    昼過ぎ位にお団子を三人で食べ他愛ない話をして屯所へ戻った。 夕餉が終わり部屋に戻りどう書簡を届けるか悩む。 一人で街に出る事はまず不可能だし許可を貰い出られても付けられてる筈だ。 一か八かの強行手段…… 皆が寝静まり死番へ行く浪士を確認し人の気配に細心の注意をして塀を飛び越え全速力で走る。 飛脚の場所は覚えている。 宿屋以外はほとんど店が閉まっていた。 飛脚を見付け閉まってた戸を激しく叩く。 中から迷惑を絵に描いた様な顔をした主人らしき男が出てきた。 私は兎に角平謝りで詫びとんでもないでっち上げで装飾して書簡と金を押し付け主人が目を丸くして了承したのを確認して屯所へ向かい走る。 暗がりを選び走って屯所の自室の戸に手を掛けた。 「そんなに息を切らしてどちらへ?」 ………失敗、か 「眠れなくて少し屯所内をウロウロしてました」 息を押し殺し笑顔で沖田さんを振り返る。 「塀の外は屯所内とは言いませんよ?…私と来て貰えますね?」 此処まで来たら何もかも諦めるのが最善だろう。 諦めついでに愛想も止めたが。 沖田さんの後を歩いて行き着いたのは土方さんの部屋だった。 両手は既に汗で湿って背中はじっとりと気持ち悪い。 「土方さん、私です」 「…入れ」
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