文久三年【春之壱】

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    「何故呼ばれたか分かるな?」 土方さんは文台から目を離さずそう言った。 私は土方さんの後ろで沖田さんの前に座り前後を挟まれている状態で逃げ場は無い。 元より逃げる気はない。 勿論この状況からは逃げたいが。 「分かります、十日待ってもらえませんか?」 「駄目だ」 「お願いします」 「今すぐ何をしていたか吐け」 「言えません」 ゴツッ!! …ドサッ 一瞬だった。 土方さんの右肘が微かに動いた瞬間… 振り返り様にものすごい勢いで畳に殴り倒された。 脳震盪を起こし掛けて目が回る。 ドスッ 「ぁ…が…」 「吐け」 倒れていた所、殴られ割れたこめかみを垂直に踏まれた。 激痛で頭に血が上る。 土方さんは真っ直ぐに私を見下ろす。 痛みに耐える様に必死で畳に爪を立てるが。 土方さんの足に更に体重が掛かり私は呆気なく意識を飛ばした。 意識を失った筈なのに目眩に襲われて目を開くと訳が分からなかった。 薄暗くてよく分からないが天井が土? 違った。 足首と手首を縛られ蔵の梁から逆さ釣りにされていた。 地面は真っ黒な水玉が幾つかあって、それが自分の血だと気付くのに時間は掛からなかった。 「よぉ…これからてめえが何されるか分かるか?」 声は背後から聞こえた 。
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