文久三年【春之弐】

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    部屋に入ればきつい薬剤の匂いがして本庄祿は包帯を全身に巻かれていた。 「…最善の善処を、尽くしましたが……目を覚ます事は奇跡に近いかと……右目は視力を失ってる可能性があり、左腕ももう動かないかもしれませんし当分箸すら持てません、右足も以前の様には歩けないでしょう…喉も相当炎症を起こし腫れていますが…少しすれば話せます………勿論、目を覚ませばの話でございますが…」 医者は眉間に皺をこれでもかと言う程に作り低く呻く様に話ている。 要は本庄祿がこのまま目を覚ます事はまず無いと言っているのだ。 「………」 「………」 近藤勇と土方歳三はひたすら死んだ様に眠る本庄祿を見ていて医者が出て行った事に全く気付かなかった。 どうしていいのか頭は真っ白で言葉も出てこない。 暫らくそうしていると徐に近藤勇は立ち上がった。 「…近藤、さん」 「歳、仕方なかったんだ…もうどうする事も出来ない、今は山崎君を待とう……」 近藤勇は土方歳三の返事を待たずに部屋を出た。 一人残った土方歳三は空恐ろしくなった。 目の前の女が、自分とは比べても意味の無い天と地程に違う身分。 公卿で武将で徳川の直属… 土方歳三には国や幕府の古い起こりはよく分からなかった。 公卿が幕臣?公卿諸法度はどうした?勤王に寝返りで大老達と並ぶ事が出来るのか? それよりも、何故この事を隠していた?
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