文久三年【春之弐】

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    「ご迷惑をお掛けしました…先に言わせて貰いますが、私は百五十年後の日本より参りました」 いきなりの口火の切り方に室内は無音となった。 「私にも全く訳が分かりません…が、事実です。これを前提に話をさせて頂きます」 本庄祿の声は擦れて小さなものだったがはっきりと善く聞こえた。 「私の名前は本庄祿ですが私には名前が二つあります…中条資春と申します…話はかなり遡りますが宜しいでしょうか?」 「構わない」 先を急ぐ様に土方歳三は返す。 部屋には近藤勇、土方歳三、山南敬助、沖田総司、山崎烝が居て皆一様に目は点だった。 「我が中条家は越後は上杉謙信公に仕えた越後十七将の一角で同じく本庄家もその一角を担っておりました… しかし、本庄家は主君上杉公を裏切り敵対していた武田軍の調略に乗り我が中条家にまで加担を持ち掛けました。 中条家は加担の文には手を付けずそのまま上杉公に申告し本庄家を陥落させ調略は未然に防げました その時に本庄家は減俸され中条家の配下に下り上杉公と共に織田豊臣徳川軍と戦をしました」 本庄祿が一区切り付けると山南敬助が口を開いた。 「何故今徳川公に?それに元は本庄と中条は別者なのだろう?」 「戦に敗れた上杉公は減俸され本庄家を連れ会津藩藩主に成り下がり…中条家には元来中条流という流派が存在し当代で景資様に本家家督が移った為、徳川に引き抜かれたのです」 「主君を棄てたと?」 明らかに嫌悪感を剥き出しにしたのは沖田総司だった 。
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