文久三年【春之弐】

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    「我々にも矜恃はあります…上杉公を失い越後十七将はほぼ陥落され残ったのは僅かなものでした…そんな中、徳川は中条に対し外様ではなく譜代として徳川に仕える様命じました……勿論そんな話を受ける訳はありませんでしたが…徳川は痺れを切らし芳しい返答が無ければ越後はこの先、陽を見る事は無いと…」 砕けた指先を震わせる本庄祿に息を飲む。 「主君を失った国が墜ちるのは水が流れるが如し至極当然でした…民にまで戦の責を負わせる訳にはいかなかった……中条家はそれなりに大きかった為に本庄家の名前を隠れ蓑に徳川に仕えたのです」 「そして、いつしか本庄と中条は癒着してしまったと?」 「はい」 山南敬助の問いに本庄祿は素直に肯定した。 「それに、徳川家康は公卿諸法度を作った為に公卿の中条では徳川には仕える事が出来ず武家の本庄の方が動き易かったのです。 ですが、本庄を名乗っても刀も流派も中条である為に表には出ず御庭番として徳川の隣に着いていました。 中条流には剣術、体術、槍術があり普通はどれか一つを極めますが、本家のみ全てを極めます。 少しでも内情が漏れない様に景資様は本家本流を裏に隠して御波延明流と名付け越後に残った弟君に本家家督を名乗らせていたのです」 今の話に偽りがある様にはとても思えなかった。 「では、菊一文字は?」 近藤勇は話の内容を了承した上で質問した 。
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