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「何故、此処へ来た時直ぐに言わなかった?」
土方歳三が最も論点としたものだった。
言えば此処までの事態にだってならなかった。
「時代は移ろい、この国はもう少し先の未来に平和を取り戻します。争いの無い民も侍も誰もが幸せな時代が来ます…その中で願を懸ける様に天子と将軍より命を承けました。
"是より先、何事在ろうとも抜刀を固く禁ず…これ一度とも相背けば切腹を申し付くべく候也"
これは、我が中条家が抜刀せずともきっと平穏無事に至ると言う両御方の覚悟でした。
それに、中条家は名前を隠して幕臣に入っていましたので将軍の断り無しに容易く公卿の中条が佐幕とは言えなかったんです。
私如きの小さな命一つで中条や上杉公、越後を奈落に落とす等出来なかった。
佐幕とだけ明かしたのはせめても透が助かればとの苦肉の策に過ぎなかったのです」
本庄祿はただ真っ直ぐ虚ろな瞳で天井を見つめていた。
「だから、名乗る為に早飛脚を出し意を仰いだ?」
「はい、十日あれば是か非いずれの返上頂けると思ったのです」
何というすれ違いだろうか…
愕然と肩を落とした土方歳三は立ち上がった。
「土方さん、もう少ししたら壬生浪士組に松平公より命が下ります…貴方はこの場所に必要な方だ、そしてこの先の日本にとってこの浪士組は誰一人欠くこと無く大儀に尊ぶ事になる……貴方の傍で浪士組の中で私に刀を、八千流を握らせて貰えませんか?」
「俺ぁ取り返しの付かねぇ大罪を犯しちまった、あんたの様な立派な人を使うなんて出来ねぇ…」
「私は…身分など知らない世界で育った、立派でも何でもない…立派ならこんな風に弟子に心配を掛ける様な真似もしないでしょう
同じ人間、私にだって誠と志はある
生きた世界が違えば守りたいものも違う、でも目指す物が同じなら数は多い方がいいと思いませんか?
私は未来を僅かばかり知っている
百姓上がりに天下は戦国より付き物ですよ」
本庄祿は微かに口角を上げた気がした。
土方歳三は静かに膝を着き
「忝ない」
と一言低く呟いた。
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