文久三年【春之弐】

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    「師匠…手が……左腕が」 早阪透の視線は完全に包帯で覆われた本庄祿の左腕に釘付けにされた。 「…うん、その内治るよ必ず又動く」 「動かないのかよ?」 早阪透の疑問に本庄祿は即座に失言だったと自覚した。 「今は動かない、でもきちんと治る」 弁解にも似た言葉に意味は無かった。 「動かないんだろ?治っても動かないんだろ!! その内っていつになるか分からないんだろ!! 必ずって師匠がそう思いたいんだろ!! …本当はもう動かないんだろ?」 早阪透は本庄祿の傍に長く居過ぎた。 一言一言に本庄祿の真意があって早阪透はそれをきちんと汲んできた。 本庄祿の言葉の癖を見抜いている。 「透、斬り落とされた訳じゃないんだ…毎日訓練すれば動く、それに右腕はきちんと動く」 「右腕動いたって左腕が動かなきゃ…いつ何が起きるか分かんねぇだろ!!」 部屋に居る本庄祿と早阪透以外の人間には何故其処まで左腕に拘るのか分からなかった。 「右腕でも刀は握れる」 「でも師匠の利き腕は左だ!!」 早阪透の声に空気が凍り付いた 本庄祿が左利き? 知らなかったのも無理は無い。 長人との一件も沖田総司との手合わせも本庄祿は 右腕しか使っていない 。
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