文久三年【春之弐】

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    「本庄さん、左利きなんですか?」 沖田総司の声は震えていた。 「はい、左利きですが今は右腕中心なんで生活には然程支障ありません」 本庄祿は何の気なしに返したが沖田総司の思うところは違った。 沖田総司は利き腕すら使って貰えなかったのだ。 それどころか、木刀を叩き落とされ完敗を帰された。 近藤勇も土方歳三も山南敬助も山崎烝も又同じように考えていた。 「だって…この左腕で十年間道場守ってきたんだろ!!なのに、どうすんだよ!!」 「十年間?本庄君お幾つなのかな?」 外見が沖田総司と余り代り映えしない本庄祿に山南敬助は不思議に思う。 「二十一で、直に二になります」 「十一で師範になったのか!?」 近藤勇の声は思ったよりも大きくなる。 「両親は私が生まれて直ぐに亡くなり先代師範の祖父も亡くなりましたので…免許皆伝直後でしたが私が譲り受けました」 十一で免許皆伝 寒気すら覚える 「その腕、国の物だろ…こんな事許されねぇよ!!」 「透、過ぎた事だ次は右腕で認めさせればいい…だからもう泣くな」 「過ぎた事で済む訳ねぇだろ!!!!なんで泣かねえんだよ!!悔しくねぇのかよ!!」 感情のままに叫ぶ 。早阪透が納まるはず筈もない。 ぶつける当ても無い怒りや憎しみ悲しみ悔しさは言葉になって本庄祿へと向かう。 「泣いたって誰も助けちゃくれないんだよ透、だけどね…私の代わりにお前が泣いてくれるし、お前が泣けば必ず私が助けてやる。 お前が私の左腕を想って泣いてくれるなら私は必ず治して見せる。 この左腕で絶対に刀を握って見せる だから、もういいんだ…」
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