文久三年【春之弐】

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    あの出来事から一週間がたった。 本庄祿は一人で動き歩ける様にはなっていたが砕けた手の骨は未だ完治には程遠く左腕は垂れ下がっている様にしか見えなかった。 あの日以来早阪透は本庄祿の傍に寄り付かず、部屋は同じ場所に戻れたものの、全く口を訊く気は無く寝る以外は部屋に居なかった。 毎日ぼんやりと廊下に座り庭を眺める本庄祿に会いにくるのは沖田総司と山南敬助だった。 「おはようございます本庄さん、具合はどうですか?」 「沖田さん、おはようございます…はい、順調に右手首は動く様になりました」 未だ右目を包帯で隠してる本庄祿の顔には痣が遺るものの当初より心を開いた笑みを見せる様になった。 「それは善かった…早阪君は道場ですか?」 沖田総司はそれ以上怪我には触れずに姿の見えない早阪透を尋ると 「…たぶん」 「堪えたんでしょうね…あの話」 「透は…六つの時から預かってたんです、太刀筋が善くて教えた事全てを体に染み込ませてるのかと思う程でした。 いつも、幸人と慎一郎と流星と言う仲間と四人で私の傍を離れなかった。 五人で居るのが当り前だと、これからもずっと変わる事無く続くと思っていたんでしょうね…」 少し遠くを眺める本庄祿は今は無いその景色に穏やかに悲しみを称えて微笑んでみせた。 「早阪君は本庄さんが大好きなんですね」 まだ如月の仄灰の空を遠くまで眺める本庄祿に沖田総司はニコリと笑い掛けた 。
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