文久三年【春之弐】

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    「嫌われてしまいましたけどね」 アハハと片目を隠して笑う本庄祿はやはり寂しそうだった。 「違いますよ…きっと、本庄さんの想いに応えようと必死なんですよ、免許皆伝なんて並大抵の努力じゃ実りませんもん…だから強くなろうと毎日剣を振るうんですよ」 沖田総司は道場から聞こえる音に耳を傾ける。 「私には…閉じ込められたこの世界で、透が総てなんです……あの子を守る為なら左腕など惜しくない…あの子に人を斬って欲しくて剣術を教えたんじゃないんです……鬼になるのは私一人で充分なんです」 本庄祿は動かない左腕を見つめた。 「本庄さんも早阪君が大好きなんですね」 「はい、内緒ですよ?」 悪戯っぽく笑う本庄祿が初めて見せた年相応の表情だった。 「勿論口外などしませんよ、それじゃぁ私は呼ばれてるのでそろそろ失礼しますね」 沖田総司は足取りも軽く楽しそうに廊下を歩いて行った。 「とうとう、京都守護職御預かりか…」 文久三年三月十三日 京都守護職会津藩藩主松平容保公より 『京都守護職会津藩御預かり壬生浪士組』と名前を頂いた。 しかし、歴史には有り得ない塗り替えが始まっていたなどまだ誰も知らない。 壬生浪士組にいる筈の無い人間が誠の旗の下に刀を握った時 新しい史実が誕生する。 平和を願う刀 誠を貫く刀 二刀が揃った後の新撰組の未来は血濡れた悲しきものから、 突然現れた師弟によって 白紙に戻され もう一度描かれ出した 。
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