文久三年【春之参】

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    「貴様何をする!!!!」 後ろにひっくり返った新見は起き上がると私の首に切っ先を据える。 「待て、新見君」 「此度の非礼、どうか芹沢様の御寛大なる懐にて何卒、何卒…」 ひたすら平伏する他無い 「そうだな、酒一滴酔いの過ち…もういい、下がりたまえ」 「しかし!!」 芹沢の言葉に新見は酔ってふら付きながらも納まらない。 「お言葉ですが新見副長殿、早阪が酒を掛けてしまったのは芹沢様です、芹沢様からお許しを頂いた以上何が御座いましょうか?」 私は頭を上げて新見を見上げる。 うっと唸るもニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべる 「貴様はこの私を足蹴にしたな…どういうつもりだ」 「新見副長殿…酒宴、酔いの回った人間の酒一滴と我が門弟早阪の首が同じと申されますか?」 私は包帯で巻かれたままの右手を握り締める。 「私は芹沢先生への無礼が許せないと思ったまでだ」 「いくら新見副長殿の御崇拝とは言え、早阪を斬るには士道不覚悟を以てして私が責任を持って斬ります…次、早阪に対して刀を向ける事がございましたら私に一言お願い申し上げます…私の預かり知らぬ場で早阪に対し抜刀の事実があった際は私も刀を抜きます」 「何だと!!!!」 新見の怒涛の怒りが納まらないのと同じ様に私の怒りも全く納まらない、今すぐにでも刀を抜いてやりたい。 「新見君、もういい下がりたまえ」 芹沢の言葉でようやく煮え切らないながらも新見は席に戻った。 私は立ち上がり透を席に着かせると上座に一礼して部屋を出ようとするとーーー 「気に入った…本庄君、君を私の小姓にする」 戸に手を掛けた時芹沢は大きな声でそう言った 私が芹沢の小姓…? 何でこんな事に…!! 「戻るなら八木邸に戻りなさい」 逆らえない 「畏まりまして候、有り難くお受け致します」 畜生、最低最悪だ
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