文久三年【初夏】

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    文月に入ると盆地の京は梅雨明けをした 現代では考えられないくらい早いが季節としては間違いない為、地球温暖化とは恐ろしいと思い出した 沖田さんと会ってからは芹沢の共で街に頻繁に出ているが前川邸の近藤一派とは誰とも会っていない 街中は文月の始めと同時に始まった祇園祭で賑わっていた しかし芹沢が歩く道は自然と開け人は失せていく その最後尾に着いて歩く私は気が気でなかった 芹沢に着いて歩く様になって、この男がどれだけ忌み嫌われているかよく分かった 立ち寄る先でいちゃもんつけては金を払わない 最初、私は茫然とそれを見ていた 止めに入るよりも目の前の状況は理解に掛け離れ芹沢が店を出て漸く何が起きていたのかをほんの少し分かった 分かっただけで理解は不可能で 私は急いで飯屋の倒れた椅子や割れた皿を集めて亭主に駆け寄ったが 「堪忍しておくれやす…」 亭主は私にまで怯えて震えたまま小上がりで土下座をして顔を上げなかった 他の客は奥の部屋まで避難して戸の影から様子を窺っていた 怒り心頭で完治した右手を握り締めた なんて無力なんだ… 止められなかった自分に嫌気が差した 私は店の入り口で土下座し 「申し訳無かった」 と一言だけ残して芹沢を追った 悔しい… 次は止めてやる
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