文久三年【初夏】

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    しかし、芹沢は次から次へと店を荒らし私はひたすら事後処理に追われる羽目になった 街を歩けば袖触れ合うも多少の縁なんて生温い 絶縁して頂きたい ぶつかった訳でも無いのに掴み掛かる、脅す、たかるで何度割って入った事か ため息を吐き切らぬ内に次の揉め事が勃発 私がそんな風に芹沢に着いて歩きながら街人との間に入る物だから、何時しか悪善人だの何だのと矛盾した名前を付けられ呼ばれていたらしい そして今も… 呉服問屋に詫びて出ると大通りが騒がしい 「次は何だよ…!!」 暑さで苛立ちはピークに達していた 走って騒ぎの中心に行けばやはり芹沢が居た だが、相手が見えない 芹沢とお梅の両脇には新見、平間、平山、野口と控え今にも抜刀の構えで腰を沈めいた 何度かこの光景も見た 斜め後ろから僅かに野口が笑っているのが見え走って芹沢の前に出ようとした瞬間 信じられない 芹沢が抜刀したのを皮切りに四人が一斉に抜いた 野次馬からは悲鳴が聞こえ、それよりも近くで泣き声が耳を突いた 子供だ 私は新見の横を過ぎ小さな少年の顔面一直線に堀川を抜いた ガシャン!! 「ハァハァ…何を…何をなさっておいでですか?芹沢様」 振り下ろされた五振りの刀は悪戯半分がよく分かるぬるい振りで右腕一本で何とか受け止めた
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