文久三年【初夏】

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    此処まで来たら芹沢を斬る覚悟は出来ていた 私は後ろに飛び退る勢いでまだ五つになるかならないかの少年を引っ掴み野次馬達の中に放り投げた 野次馬達も少年が宙に浮いた瞬間覚悟を決めたのだろう落下地点に男衆が集まり少年を掴むと蜘蛛の子の様に散って少年が何処に居るのか分からなくなった 芹沢は流石に早かった 抜刀が間に合わず寸での所鍔で受け止めた 重い 沖田さん程の早さは無いがその分の剣圧は凄まじい 二度鍔と鞘で受け止めてやっと抜刀し構える 微かに屋内から見ている野次馬の声が聞こえる 左腕が…と 私の左腕はダラリと下がって言う事は聞かない 刀は基本軸の手と添えの手があって両手で握る 現に芹沢も両手で握っていた だけど私は左腕が動かない為に間合いを取る間も右肘を顔と同じ高さで平行に保って腰を落とし中段に構えている 芹沢は少しずつ前に出ていた足が止まると刀を僅かに引いた 来る 刀を脇に引いて突きの構えで突進してくる 目の前に来た瞬間芹沢は突如刀を大きく振り上げた 不味い…こんな大男の振り下ろす刀など受け止められない 突きを受け流す構えでいた為に右腕一本じゃ受ける事も出来ずそのまま横に転げた 素早く起きて芹沢の刀を上から押さえるが力が足りず足で峰を踏んだ それでも、まだ芹沢の両腕の力には適わず一気に刀が跳ね上がる このまま引けば足を落とされる そう判断した私は峰に全体重を掛けバランスを取ると完全に刀が持ち上がった なんて男だ…人間一人乗っているのに刀を持ち上げやがった その勢いで私は逆さに宙を舞い三畳分距離を開けて着地した
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