文久三年【初夏】

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    下段腕の力を抜き地を這う様に刀を滑らせて一直線に芹沢へ突っ込む 芹沢が中段に構え走りだす 片腕の力だけで相手出来る程、この男は小さくなかった 体全体の勢いを使って振り抜かなければ簡単に弾き返される為切っ先が一尺に迫ったと同時に左足を軸に更に腰を落とし芹沢の懐に背を向ける様に体重移動させて右腕を後ろに振り抜く ガキィン!! 顔の脇で火花が散る 芹沢は脇差で体が横に真っ二つになるのを防いだ 力を抜いて刀を凪いで芹沢ともう一度間合いを取った時だった 「芹沢先生!!前川邸の者達が此方に向かっております!」 いつの間にか姿を消していた平間が大声で走ってくる 「…フン、興が逸れた…帰るぞ本庄君」 芹沢はあっさりと退き納刀すると八木邸へ向かい歩きだした この男、何故笑っている… 相変わらず胸くそ悪い男だ 真剣を握ったのは一年ぶりだった 腕は鈍ってるし左腕は使い物にならなくて慣れないし 修行やり直しだ 新見や平山、平間、野口はお梅を連れて芹沢に続く 私はその背を認めて歩きだした 角を曲がる寸前、後ろで久しぶりに聞く声が響いた 「何事だ!!!!」 珍しい、土方さんのお出ましただ ほんの一瞬目が合って私は角を曲がり人混みに紛れた 「本庄!!!!!!」
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