文久三年【初夏】

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    芹沢はどうやら真っ直ぐ八木邸に帰るようで道程に店は無い 私は土方さんの足の早さを知っている 歳の鬼あし 嫌な名前を付けられた物だ 確かに背後が騒然となり始めている所を感じるとかなり近くまで迫っている様だ 私は人の波に飲まれる様に縫って歩き裏小路に入る 遠回りだが芹沢に追い付かず且つ土方さんにも追い付かれない為に遠回りをした 屋敷に戻っても何を言われる事も無い処か何時もの様に控えていろと部屋に呼ばれる始末 本当に何を考えているか分からない 却って新見の方が清々するくらいに睨み付けて芹沢の見えない所で毒づいて小突いてきた 勿論、私は無視の方向で 結局、三日後には懲りずに又私に共を命じて連れ歩き土下座の事後処理をさせる 嫌がらせか? 実はねちねちと精神的に追い込みたいのか? さっさと抜刀してくれた方が此方も刀を抜く口実が出来て楽なのに だけど街を歩いていて三日前と明らかに違う事がある 「本庄様や…」 「本庄様又、頭を下げてはる…」 何故だ… 何故、街人に私の名前が知れている…? しかも、なんか芹沢が荒らした店に謝罪すると優しくされる… 何故だ? 一つは思い当たった あの日、芹沢達と土方さんが街人の前で散々私の名前を大声で怒鳴った でも、優しくされるいわれはない 謎だ… ほら、又だ 「本庄様、頭を上げておしやす…貴方様が謝る事違います…」 「……そうは参りませぬ、誠に申し訳ない…」 結局は頭を下げるのだが なんだか複雑だ…
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