文久三年【初夏】

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    壬生浪士組監察方山崎烝 振り返ると彼は築地塀の上に月を背負って立っていて その手には 紫露草が握られていた 花言葉は尊ぶ 「何してるんですか?」 「何も」 彼は塀から飛び降り何時も居るらしき場所に立つ 「山崎さんがいつも花を?」 「せやったら何?」 「いえ、何も」 彼と会話をした事は一度も無い 「さよか」 「危なく無いんですか?」 「何で?」 「此処が八木邸で芹沢がいて貴方が近藤さんに仕えているからです」 「別に、それよか自分の主人芹沢呼ばわりか?」 「主人?他人から言われると虫酸が走る…あれを私の主人と認めた事はありませんよ」 「……さよか、ほなな」 彼はヒラリと身を翻して塀に立った 彼が先程まで立っていた庭には紫露草が置かれている 何故突然思い出したのかは分からないがその名前が口を突いて出た 「赤沢守人さんはお元気ですか?」 「何やて?」 「間諜の赤沢守人さんはお元気ですか?」 「本庄、何でそいつ知ってん?お前が居らんくなってから入隊したんやぞ」 「百五十年はとても長い様で短かったみたいです…白日の元に全て曝されています…家族も友も仲間も敵も伏兵も裏切りも忠誠も…彼は何時、島原へ行かれますか?」 「…分からへん、すぐ調べる」 「そうですか…山崎さんこの庭の角に鋸草がありますそれを近藤さんと土方さんと山南さんに貴方に天竺葵を…お返しです、近い内にお伺いするやもしれませんので、良しなに…では、おやすみなさい」 私は紫露草を拾い部屋へ入る
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