文久三年【初夏】

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    「ん?目が腫れてるではないか、泣いたのか?」 月明かりを受けた所為で野口は不躾に顔を覗いた 「いえ、欠伸をしただけです」 「この筋は?」 あろう事か顎を掴まれ頬をなぞられた 「お離し下さいませ、急用なのではございませんか?」 危うく叩き払いそうになった 気分が悪い それよりこの男…異常に酒臭くないか? それに、フラついている 「ふん、まぁいい…今から酒屋へ行くぞ」 「今から?」 「当たり前だ!!」 野口は私の動かない左手を握り力任せに引っ張って歩きだす 「ちょっとお待ち下さい!!この様な夜更けに一体何処の酒屋へ行かれるのですか!!」 「そんなもの開ければいい!!」 無茶苦茶を言って退けるな 「野口殿はもう随分酔っておられます、お休みになられた方が良いかと存じます!!」 何とかこの男を止めようと左手を握る手を掴み足に力を入れるが体格が良く酔っていて全く力加減が無い為止まらない 「黙れ!!貴様の様な小姓風情が私に逆らうか!!」 その小姓風情を呑みに連れて行こうとしてるのは何処のどいつだ 「如何なされたのですか!!私風情等と酒など呑んだ処で味が落ちましょう!!」 もう深夜などお構い無しで私と野口は引っ張り合いの怒鳴り合いをしている 精々助かっているのは邸の奥の部屋とは言え私の部屋が離れだった事で母屋にはまだ届かない 「私とて貴様と呑む不味い酒が更に不味くなる事くらい知っている!!」 有り得ない失礼な男だなコイツ 「ならば、私などではなく新見殿や平間殿、平山殿をお誘いすれば良いではないですか!!」 私は等々柱にしがみついているが野口も負けじと私を抱えて引っ張る 「あのような者達と呑む物など酒とは呼ばん!!泥水だあんなもの!!」 流石の私もギョッとして柱を離し野口の口を手で塞いだ
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