文久三年【初夏】

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    馬鹿かコイツ何て事を大声で言ってるんだ 「滅相な事を仰らないで下さいませ!!」 私は小声で必死に怒鳴る 野口は私の手を払おうとバタバタと手を動かした挙げ句に噛み付いた 「いぃっ!?」 「滅相な事があるか!!貴様の化けの皮だって時間の問題だ!!新見は貴様に芹沢を殺させようとしてるのだぞ!!」 「な、なんと?」 私は顔が引きつるのを感じていた 新見が芹沢を裏切る? おかしい…そんな歴史は存在しないはずだ 寧ろ、芹沢が遊女を新見に取られ逆恨みで新見の切腹を許可したとまで言われているのに 「新見は貴様を手中に落としたいのだ!!先日の一件で間違い無く貴様は芹沢に勝てた、このまま貴様を芹沢の共に着ければ幾度と無く抜刀の機は巡る、芹沢が消えれば新見は貴様を使い前川邸近藤一派を乗っ取る気だ」 馬鹿だ 途方も無い馬鹿だ 救い様が無い 救う気など端から持ち合わせてなどいなかったが… 私は何とか動きの止まった野口を力の限りに引っ張って部屋へ押し込み話を聞いた 余程酔って感情的に喋っていたのか部屋の中にいる事に野口は大層驚いていた 「野口殿は新見殿のやり方が気に入らないと?」 「違う!!芹沢がどうなろうと新見が何をしようと知った事か!!私は現状を壊されるのが罷りならん!!」 「現状?」 野口の思うところが中々分からない
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