焦燥

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   薄暗い、淫靡な照明のラブホテルの一室で、今日もあたしは先に目覚めた。傍らの大嶋は天井を向き、いつも通り鼾をかいて熟睡している。  柔らかい枕に顔を埋めて愛しい男の寝顔を眺めていると、数分間があっと言う間に過ぎた。高く通った鼻筋は男らしく、唇は少し厚くて乾いている。閉じた両目を真っ黒な睫毛が覆って、眉は少ししかめたような格好をしている。寝顔は矢張り、年相応のそれを露にしていた。 (苦しいのかな)  一見すると息苦しそうな表情に、あたしは少し不安を覚えた。大嶋の鼾は大きいのに時々途切れることがあって、しっかり呼吸できているのかとよく心配になるのだ。けれど呼吸器官が悪いなんて話は聞いたことが無いし、起きれば本人はけろっとしているから、あたしも変に騒ぎ立てないようにしている。  それに今は規則正しく響く鼾が、きちんと呼吸していることを教えてくれる。 (疲れてるんだろうな)  ほんの2時間前まで、あたし達はこの仰々しいベッドの上で、汗だくになりながら抱き合っていた。
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