晶とるうな。

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「ただいま……」   「お邪魔しま~す」     上京してから初めて、宇都宮の実家に帰った。   本当は来る気なんか無かったが、るうなに拝み倒され……俺が折れてしまった、というわけ。     高校進学を理由に上京して、そのまま短大に行って、Teps始めたから……実に十二年ぶりとなる。     高速に乗って、上手く流れれば一時間。   新幹線ならもっと早い、100キロの距離。     ……それでも帰る気は起きなかった。     理由は簡単。 帰りたくなかったから。     家族が嫌いとか、地元の人間が嫌いとか、そういう具体的な理由はない。     親には申し訳ないが……ずっと昔から一人で生きたい、そんな願望があったから。     「あ、兄貴だ。どうしたの?」   「あぁ……暇ができたんでな」   「ふーん……。オカン~、兄貴帰ってきたよ~!」     玄関の扉を開けたのは、四つ下の妹……奏未(かなみ)だった。     前に聞いた話だと、地元の企業に就職したらしい。   詳しくは知らないが。     「あら、晶! よく帰ってきたねぇ……」     奏未に呼ばれて、母が二階から降りてきた。     突然の俺の帰省に、母は驚きと嬉しさが込み上げてきたのだろうか、段々と目が潤んできた……。     「……ところで兄貴……その子は?」   「……あぁ。辰野るうな……何て言うか……嫁?」   「は、はじめまして……」               「……え?」     その瞬間、母と奏未はフリーズした……。
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