彼女

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「美咲ちゃーん、おはよんっ」 朝の学校、あと五分後には一限開始のベルが鳴るだろう。廊下を歩く彼女の美咲を見つけた。 俺の特技は、どこにいても美咲をすぐに見つけられること。うん、愛の力だね。それに美咲は、我が東高校のシンデレラ的存在だから。 馬鹿で阿呆な何の取り柄もない俺。そんな俺の唯一の自慢、学校一美人な彼女…いや、日本一?世界一?銀河一! 俺は美咲に背後から抱きついた。黒くて光沢のあるロングヘアーが頬に当たって気持ちがいい。 そんな朝から幸せモードな俺とは裏腹に、美咲は不機嫌。 「ああ、おはよ…てか暑い、離れて」 シッシッと手を横に振った。ちぇ、っと言って離れてあげた。 「二日ぶりに会ったのに冷たくなーい?」 俺は子供がダダをこねるように、体を横に振った。 「裕哉がサボるからでしょ。もう夏だよ?受験生なんだからもっとしっかりしたらどうなの」 美咲が目を細めて俺を見る。そして溜め息。ダメだ…そんな姿でさえも艶めかしいと思えてしまう。 「そんなんじゃ南大学にも受からないわよ?今の時期は内申が大事なんだから、ちゃんと来なさいよ」 美咲は腕時計に目をやった。俺がプレゼントしてあげた、水色の腕時計。 「じゃ、本鈴鳴るから」 そう言って自分のクラスに入って行った。俺のクラスは、美咲のクラスの隣。 だるそうに教室に入り、一番後ろの窓側に座る。俺の特等席。 「おー裕哉久しぶりだな。さっきの廊下での絡み見たぞ。相変わらず尻に敷かれてんな」 ククっと笑いを堪えながら、俺の前の席に座る武田敏志。小学生の時からの友達。ここまで来たら、もう腐れ縁。 「まあ美咲の言うことは正論だからな」 俺は鞄から教科書を出した。学年でも成績は、下から数えた方が早い。正真正銘の馬鹿であり阿呆である。 しかし美咲に言われた通り、南大学には受かりたい。南大学は、偏差値が低くて有名な馬鹿大学。馬鹿でも入れる大学である。 それなのに、春に模試を受けて第一希望を南大学にしたところ、E判定が返ってきた。 この結果に、美咲は怒るどころかひいていた。 「でも、お前らって本当に不釣り合いだよなー。美咲ちゃんは東高校のシンデレラだぜ?容姿端麗、頭脳明晰…なのに何でお前なんだろうな」 敏志は顎に手を持って行き、真剣に考えた。いつものことだから俺は気にもとめず、久々に開く教科書に目を落とした。
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