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一週間後、模試の結果が返ってきた。
六限が終わり、しばらくすると担任が入ってきた。俺のクラスの担任は、五十代半ばの爺さん。見た目は怖いけど、話せばわかる奴。あだ名はカントリー。カントリーマアムばっかり食ってるから。柔らかいから歯が痛くないらしい。
「おーい皆、席座れ。模試の結果返すぞー」
クラスメートがガヤガヤと席に着く中、俺だけが席を立ち上がり、カントリーのそばへ駆け寄った。
「ちょちょちょっ!早く!模試の結果!」
俺はカントリーの体を揺さぶった。
「やめろ神谷ー。名前順で返すから待っ…」
「無理!ごめん!」
俺はカントリーが持つクラスメートの模試の結果を奪い、自分の名前を探し出すと、勢いよくそれだけ持って席に戻った。
「まったく神谷は…人の話は最後まで聞け!」
口では怒りながらも、目は笑っていた。
俺は正坐をして椅子に座り、表紙を見つめた。これを開けば、中に結果が書いてある。
敏志も俺の横に来て、一緒になって表紙を見つめた。
「ちょ、近ぇよ。離れろ」
言っても敏志は聞かない。早く早くと俺を急かす。
ゴクッ…
俺は息を飲んだ。心臓がやけにうるさい。
表紙を開いた。模試の結果をちゃんと見るのは初めてだった。
中にはたくさんの〇×の記号、よくわからないグラフ。
「おい!裕哉、これ…っ」
敏志が耳元でデカい声で叫ぶので、体がビクついた。
敏志の人差し指がさしている方向に目をやった。
“神谷裕哉 南大学 B判定”
「え…」
「やったじゃん裕哉ー!まじおめでとー!」
敏志はとびっきりの笑顔を見せて抱きついてきた。俺がB判定…?嘘だろ?奇跡としか思えない。
たかが南大学かもしれない。でも、俺にとっては奇跡だった。
敏志が教卓まで走って行った。カントリーは敏志の話に笑顔で頷き、俺のところまで小走りで来た。
「神谷よくやったな、おめでとう」
そう言ってポケットからカントリーマアムを差し出してくれた。俺はありがたく受け取った。
嬉しくて嬉しくて、早く美咲に伝えたいって思った。
俺は本当に…自分のことしか考えていなかった。
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