壊れた世界、壊された心

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「どうして先生だけなの?」 また質問がきた。その質問をしたのは10歳くらいの男の子。ナイトはその子の方に歩いていき、しゃがんで目を合わせた。 「僕しか出来ないんだ。異能を持っているのが、このシェルターでは僕だけだから。例えば、君が異能を持っていたのなら、このシェルターの防衛を任せて僕は交渉を最優先させる。だけど、そうにもいかない。何故なら、君は異能を持っていないから」 「じゃあ、どうしたら異能持てるの?」 立ち上がり、ナイトは子供たちの前の方へ、歩いて戻っていく。 「異能は先天的なものだ。生まれた時から持っていなければ、入手することは困難。持っていたとしても、目覚めなければ使うことが出来ない。でも、目覚めていなくても異能を持っていれば不思議な現象が起こるはずなんだ。僕のケースなら、幼くて異能を扱えていないし、目覚めてもいなかった頃。僕が精神的不安定な状態になると、近づいた人には何の前触れもなく裂傷が出来上がって、周囲にも細かな引き裂かれたような痕が出来上がった。だから、僕は訓練をした。異能を制御出来るように。――聞いている限り、君たちにそういった現象は起きていない。限りなく、君たちが異能を持っている確率は低いんだ」 履いているブーツが、歩く度に音を立てる。子供たちの前で立ち止まり、ナイトは彼らを見渡した。 「今日は、ここまでにしよう。異能は欲しくても手に入るものではない。要らなくても、手放せるものではない。先天的なものだ。……もしかしたら、君たちは異能がなくて幸せなのかも知れない。――解散」 言うと、ナイトは速い歩調で自分の部屋へと戻っていった。
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