壊れた世界、壊された心

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「おっ、お前は何なんだ……!?」 女が恐怖に眼球を揺らしながら少年に言う。すると、少年がにんまりと口元を歪めた。 「僕に名前なんか必要ない。僕は、僕のアイデンティティーを守るだけの存在。――ナイト。一番、相応しくない名前だと思わない?」 楽しげに、残酷に、少年――ナイトは女に言った。底の見えない、不気味な笑顔だった。たかだか、10代の半分程度くらいの年をした子供の笑顔とは、到底思えない。 「貴女は、悪だ。罪状なんて知らない。ただ、貴女は金欲しさに老婆を殺した。だから、僕が殺す。これは、裁きとは違うよ。僕の個人的な、私怨の一環だから」 「……私、怨……?」 「そう。僕はね、とっても寂しがりやで、悲しい殺人鬼なんだよ。悪人を見てると、どうしても殺したくなっちゃうんだからさ……。それじゃあ、さようなら。また生まれてきたら今度は悪にはならないようにするといいよ。そうすれば、僕がまた殺すことにはならないから――」 女が最後に見たのは、真意の見えない笑みを浮かべたナイトの顔だった。それを見た途端、全ての意識を失って闇へ堕ちた。 「……」 掴んでいた女の生首をぽとりと放し、ナイトは頬に浴びた一滴の血をぺろりと舌で舐めた。女の頭が胴体から切断されている。その死体を見下ろしてから、荒廃した大地を歩き出した。灰色の空をした、ひび割れた大地を。風にロングコートがなびく。ナイトは物憂げな表情で、まっすぐ歩いていった。
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