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「……」
カツカツ、と音を立ててナイトはシェルターを歩く。それぞれのシェルターによって広さは様々だが、このシェルターは狭い方だ。およそ800人ほどの人が生活している。
無骨で、どこまでいこうとも無彩色の空間が続き、違う色が出てきたかと思えばそれは血のどす黒い赤だ。誰かがケガでもした時に滴ったものだろう。とても、目にいいとは言えない。
多くの人は質素で、貧乏で、さらに張りのない生活をしている。誰一人として、その水準から飛び出すことはない。物がないのだ。
シェルターに持ち込まれる物は週に一度か、二度の政府からの配給だ。一人ではとても食べきれない量だが、それをシェルターの人間全員で分けると、一日二食、それもほんの少しだけの食事となってしまう。
「ナイト君……」
家族単位で割り当てられている、自分の家となる部屋へ向かっているナイトを呼び止める声があった。足を止めると、老婆がいた。骨と皮ばかりで、皮膚は垂れ下がり、ダンボールの敷かれた上に寝たきりだ。歩み寄り、ナイトは老婆の傍にしゃがみ込んだ。
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