閑話

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 話し合いの後、中学を卒業するまでは凪たちの両親はちゃんと家にいた。凪が笑ってて、嵐も入退院を繰り返しながらもコロコロと表情を変える様が、とても幸せそうで。  俺は、そんな二人を見れて嬉しかったのを覚えてる。  雲行きが怪しくなったのは、俺たちの高校入学が決定したときだったろうか。  親父さんの会社を救った新事業。それが成功し、海外の企業との契約も増えた。  しかし、今まで海外に進出するということをしなかった会社である。海外で問題なく動ける人間が、ほとんどいなかった。  凪たちの父親を除いては……。  いきなり決まった父親の単身赴任。それに母親もついていくと決まったと、親父さんは言った。俺の目の前で行われた会話だから、今でもはっきり覚えてる。  嵐の驚愕と戸惑いが混ざった表情。父親がすまない。という表情をしながらも、決定事項を淡々と伝え、母親は過去の事を思い出し、始終青い顔をしていた。  俺はちらりと凪を見た。家族が離れる。というのは、凪にとっては二度と経験したくないもののはずだ。今、凪はどんな表情で聞いているのだろうか。  半分気遣いで、半分は好奇心だった。  凪の表情を見た俺は、一瞬寒気がした。瞬きもせず、かといって何かを考えているのでもなく、凪の顔はどこまでも無表情だった。 「……分かった。こっちは大丈夫だから、二人とも行っていいよ。仕事だもんね。父さん頑張らないとね」  そう言いながら、震えている手を見せないようにと、掌に爪が食い込ませるその姿は、とても辛そうで、泣きそうだった。
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