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夕飯を食べ、食後の緑茶を飲み終える頃には夜の八時。さすがに帰らないといけない時間だ。
「いいか浅羽。包帯はさっき教えたように巻けよ。あと薬はちゃんと塗ること。嵐の発作の薬も無くなったら連絡くれれば…」
「はいはいみっちゃん。あんまりしつこい男は嫌われるよ」
みっちゃんが凪に丁寧に説明しているときに、比泉がみっちゃんの襟を掴む。みっちゃんは比泉を睨みつけたが、本人はどこ吹く風だ。
「じゃあね、凪ちゃん。ご飯美味しかったよ」
「ありがと。また食べに来てよ」
凪の言葉に、比泉の目がキラッと輝いた気がした。
「ホント?今イベントに向けて修羅場なんだ。食べに来ていいの?ていうか、凪ちゃん今度コスプレして売り子に…」
「お前は話が飛躍しすぎだボケ」
みっちゃんの鉄拳が比泉を捉える。嵐と凪は、その様子を引きつった顔で見ていた。
そのままギャアギャアと喧嘩を始めた二人を無視して、俺達は話を進めた。
「ま、とりあえず御馳走様。あんまり無理すんなよ、大会近いんだし」
「うん。分かった」
「嵐も、凪を困らせるんじゃねぞ」
「それは善処するよ」
善処なんてどっから覚えやがった。
なんて文句は言わず、俺は近所迷惑になりかけの喧嘩をしている二人を連れて、凪の家を後にした。
帰り道は途中まで一緒だ。
じんわりとした、夏特有の蒸し暑さを感じながら、俺たちは駅前の交差点にやってきた。
「じゃあ、俺こっちだから」
「……水越!!」
そう言ってくるっと方向転換して帰ろうとした時、みっちゃんに呼びとめられた。何かと思って振り返ると、みっちゃんが口を開いた。
「浅羽の問題は分からないけど、お前もあいつらも、もっと俺たちを頼っていいんだからな!」
「俺たちだって、やれることはあるんだからね。三人だけで抱え込むとか、水臭いことしないでよね!」
言うだけ言って、二人は満足したのか、帰って行ってしまった。呆気にとられた俺は、アホみたいにぽかんと口を開けていた。
「……っバーカ。言われなくても分かってるよ!」
もう聞こえない距離だろうけど、俺は人の目も気にせずに叫んだ。そしたら、なんかスッキリした気がして、俺は清々しい気持ちで帰宅した。
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