帰国

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 夏休み中でも登校日というものがある。  水越は、「くそ暑い学校に行って何が楽しいんだ……」とぶつくさ文句を言っていた。が、逆に嵐は上機嫌だった。 「……なんでそんな機嫌いいんだよ。めちゃくちゃ暑いじゃねえか」 「えー、だって出席日数足りなくなるところだからね、こういう日こそ稼がなくちゃ」 「……そうかよ」  嵐の言葉に水越はそれだけしか言わなかった。  嵐の言ってることは本当の事だ。一年の頃、急激な生活の変化についていけなかった嵐はよく体調を崩してしまった。その結果、単位はどうにか稼いだのだが、出席日数か足りず、危うく留年するところだった。 「懐かしいねー。あの時はちかちゃんがいなかったらどうなる事かと思ったよ」  そう、嵐を助けてくれたのは、他でもないちかちゃんだった。ちかちゃんが先生方を説得し、長期休み返上で特別授業を行ってくれたおかげだ。 「ああ……あの時な」 「あの時……ねえ」  ……特別授業を行う代わりに、俺と水越がちかちゃんのお兄さん(バイでオカマ)の経営している喫茶店(という名のホストクラブ紛いの店)で春休み中働かされたけれど。
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