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言われた通り部屋に戻る。さっきの父さんの顔を思い出すたび、胸が苦しくなった。
あの、一瞬見せた嫌そうな顔と冷めた目で睨みつけるあの顔。
「っ……」
泣きそうになるのをなんとか堪えて、机の上に置いたプレゼントを持ち、嵐の部屋に向かった。
母さんに見つからないように嵐のいる離れに向かう。
嵐の体調がこれ以上悪化するのを恐れ、母さんは俺が嵐と会う事を禁じた。少し会うだけでもいつもの優しい母からは信じられないくらい烈火の如く怒る。それだけは避けたかった。
嵐の部屋にこっそり入ると、珍しく嵐が起きていた。
「あ、お兄ちゃん」
この頃嵐は俺の事を「お兄ちゃん」と呼んでいた。
「嵐、誕生日おめでとう。はい、プレゼント」
座りながら嵐にプレゼントを渡した。中身が読みたかった本だと分かると、嵐は目をキラキラさせながら喜んだ。
「ありがとう!あ、僕もプレゼントがあるんだ」
そう言って、枕元に置いてあった小箱を渡してきた。
中を見てみると、色とりどりの金平糖が入っていた。
「プレゼント用に、お母さんに買ってきてもらったんだ。お兄ちゃん、お誕生日おめでとう」
やっと聞けた、自分が望んでいた言葉。それが素直に嬉しかった。
その時、ふと嵐の枕元に真新しい肩かけが置いてあることに気付いた。
「嵐、それどうしたの?」
気になった俺は、嵐に聞いてみた。聞かなきゃよかったと後悔したのは、その直後だった。
「これ?お母さんが誕生日プレゼントにくれたの」
……ナニカガ軋ム、音ガシタ。
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