悪夢

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 何も言わない俺に対し、じっと俺の答えを待っていた父さんは、立ちあがって俺の腕を引いた。 「え」 「来なさい。今夜は冷えるから、そんな恰好では風邪をひいてしまう」  確かに、うなされていたからか冷や汗でびっしょりな身体は正直気持ちが悪かった。  父さんにつれられるように風呂場へ行き、汗をお湯で流す。  情けないところ、見られちゃったな。 「凪、上がったら私の部屋に来なさい」  風呂場の外から、父さんが声をかけてきた。  正直、あんな夢を見た後で父さんに会うのは気が引けたが、呼ばれたのなら行かなくてはならない。  俺は、重い足取りのまま、父さんの部屋に向かった。  父さんの部屋は、俺の部屋から三つ奥に行ったところにある。  障子から光が見えたので、俺は声をかけた。 「父さん、凪です」 「ああ、入りなさい」 「……失礼します」  部屋に入ると、父さんはパソコンで仕事中だった。仕事中という状況に、トラウマが蘇りそうになった。  どうすればいいか分からず、ずっと立っていたら、父さんが笑って手招きをした。  俺が父さんの近くに座ると、父さんはマグカップを差し出した。 「?」 「それを飲んだら、少しは落ち着くと思うぞ」  マグカップの中身はココアだった。  一口飲んでみると、甘くてほんの少し苦い。この独特の苦みは……。  思い出した。小さい頃、どうしてもコーヒーが飲みたいと言った俺の為に、子供でも飲めるようにと作ってくれたのだ。  コーヒーとココアを同じ割合で入れ、そこに砂糖とホットミルクを多めに入れる。俺の大好きな味だった。
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