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「大丈夫か?今解くからな」
そう言って水越は急いでさるぐつわを外してくれた。
俺は外されたと同時に咳込み、口の中に溜まった血や唾液を吐き出す。
どうやら殴られた時に切ったらしく、吐き出した後も口の中に鉄の味が広がった。
水越は次に手首の拘束も外した。
抵抗した時に擦れたのか、手首は赤くなっていて、それを見た水越が顔をしかめたのを俺は見逃さなかった。
水越が外してくれてる間に、俺はぼんやりとした視界を正す為に、何度か瞬きをする。
クリアになった視界で辺りを見ると、入り口付近に不良達が倒れているのが見えた。すぐそばには、無残にもバラバラになったデジカメ。
さらに、水越の顔をよく見ると、口の端から血が流れ、眼鏡にはヒビが入っていた。
「み、水越!その顔……!」
不良にやられたのか。と、続けようとしたが、本人は気にしていなかったらしく、口元を拭いながら説明してくれた。
「ああ、そういえば凪、気絶してたんだっけ。二、三発殴られただけだから気にすんな」
水越の話だと俺は、ぼんやり考えていたと思った時間、意識が飛んでいたらしかった。
でも、気にするなと言われて気にしない訳がない。
その怪我が俺のせいでついたのなら尚更だ。
「ごめん……」
ああなんで、俺は謝ることしか出来ないんだろう。
俺が俯いていると、水越は着ていたワイシャツを脱ぎはじめ、俺にかけてくれた。
「え……」
「謝ることねぇよ。……俺が早く来てればよかったのに……ごめん」
水越はそう言うけど、水越があのタイミングで来てくれなかったら、どうなっていたのかわからない。
水越が謝る必要なんて、どこにもないのに。
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