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水越にもう一度支えてもらいながら校門をくぐると、一台の車がとまっていた。
あのベンツは……水越の家のだ。
ベンツから男性が降りてくる。白髪の混じった頭に燕尾服のこの男性は、水越の専属執事だ。
「お帰りなさいませ、坊ちゃん、凪様」
「おう、ただいま。こいつ送るから」
執事さんは鞄を受け取り、「承知しました」と呟いた。
あ、説明が遅れたけど、これでも水越は大企業の御曹司なんだ。
初めは俺も驚いてたけど、今は慣れてしまった。
「そうそう、凪様。私、久々にスコーンを焼きましたよ。どうぞお持ち帰り下さい」
「わぁ、ありがとうございます」
執事さんのお手製スイーツはとっても美味しくて、俺の好物の一つだ。
嵐と後で一緒に食べよう。
「坊ちゃんの分は食後にお出ししますね」
「……いらねぇ。つか、高校生になってまで菓子くわねぇ」
水越がため息をついて車に乗り込む。俺もそれに続いて乗り込んだ。
「……しかし、旦那様は毎日欠かさずお召しあがりになりますが?」
執事さんはハンドルを握りながら、そう返した。
「……あのお子様舌の、親父と比べるなって言ってんだろくそ爺!」
「おやおや、爺は耳が遠いですから何も聞こえませんねぇ」
またいつもの言い合いが始まった。
にしても、執事さん余裕だな。大人の余裕ってやつ?
俺は二人の言い合いを遠くで聞きながら、欠伸を一つ。
家までまだ距離があるし、ちょっと寝よう。
俺が目を閉じると、すぐに意識は夢の中におちていった。
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