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◇ ◇ ◇
「……眠ってしまわれましたね」
執事がそう言ってくすりと小さく笑った。
隣から寝息が聞こえるので、多分そうだろうとは思っていた。
凪の頭をこちらに寄せ、俺の肩に寄り掛かる様に寝かせる。
「……きっと疲れたんだよ」
今日は色々有りすぎた。
少しくらい、休ませてやってもいいだろ?
執事は何も言わずとも、車の速度を落としてくれた。
「……変わられましたね。坊ちゃんも、凪様も」
「……ああ、そうだな」
確かに、俺は変わったのだろう。
昔は凪の事が、大嫌いだったのだから。
嫌いで、嫌いで。
嫌いだから傷つけて、凪の心をえぐってしまった。
凪の事を何も知らなかったのに……。
そんな俺が、凪を好きになるなんて、可笑しい話だ。
けど。
「今はただ、側にいてくれよ」
俺は凪の髪を梳きながら、そんな言葉を呟いた。
今はただ、側にいて、あの笑顔を見せてくれればそれでいい。
いつか、俺が思いを伝える、その時まで。
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