傷痕

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 入学してから一日はちゃんと兄の方を見た。  で、見て俺が下した結論は、 「信用出来ない」  ただそれだけだった。  俺は親の会社を継がなくてはならない。  つまり、財界に入る訳だが、この世界は騙されたらその時点で会社が危なくなる。  大切なのは、嘘を見抜く力と、信頼出来る人間を側に置くこと。  昔から、財界のパーティーで嘘を見抜く力を研いてきた俺は、簡単な嘘ならすぐに見抜ける。  だから、あの兄は信用するに値しないと俺の中で結論づけて、その後は関わらないようにしてきた。  嫌い……というよりも関心がないわけで、兄の方が話し掛けてこなければ、俺は口をきかなかった。  それが一番良いのだ。という考えを変えたのは、一年の夏休み前だった。
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