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傘をさして鞄の持ち主を探すと、玄関口側の花壇にしゃがみ込んでいた。
傘もささず、ぼんやりとしている兄の方。
俺はそいつの腕を掴んだ。
「……え?」
ワンテンポ遅れて反応するこいつ。その腕は冷え切っており、何時間雨に当たっていたのか疑問に思えた。
「お前、何やってんだよ!風邪引きたいのか?!」
俺が叫んでも、こいつは無反応だった。
俺は、浅羽の家に用があるからついでに送っていこうとぐいっと腕を引っ張った。
しかし、こいつは動こうとしない。
もう一度やっても同じだった。
「何だよお前!帰らない気か?!」
俺の言葉に、こいつはようやく反応を見せた。
「……いな」
「は?」
こいつが何かを呟いた。
よく聞こえなかった俺は、耳を近づけみた。
「……家に、帰りたくないな」
そう言って笑うこいつが、脆く崩れそうな危なさを持っていたように俺は思えた。
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