傷痕

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 俺は少し驚いた。  確か今日は、弟は寝込んでいる筈なのだ。 「浅羽、お前風邪引いて寝てる筈じゃ……」 『ああ、水飲みに出て来たんだ。水越君だよね?今日はどうしたの?』 「……お前の兄貴が倒れた」 『え?』 「だから、今お前の家に」  向かっている。  そう続けようとした口が止まる。  弟が電話の向こうで叫んだのだ。 『ダメ、絶対ダメ!兄さんを連れて来ないで!』  俺は一瞬聞き間違えたのかと思った。  連れて来ないで?  兄貴が倒れたって言うのに? 「どういうことだ?」 『ダメなんだ……。お願い、兄さんを預かって!兄さんを……助けて』 「って言われても……」  もうすぐ浅羽の家に着くぞ。  そう告げると電話の向こうで泣きそうな声で同じ言葉を告げた。 「……わかった。とりあえずこいつは預かる。ただし、条件付きだ」 『?条件?』 「話せ、直に。なんでこいつを預かるのか、俺にどうしてほしいのか。全部、話せ」  俺はこいつの事を何一つ知らない。知ろうともしなかった。  だが今は、こいつの事を理解したい。理解してどうするわけでもないが、こいつを助けたい。  こいつの身を預かるのなら、尚更だ。 『っ……わかった』  電話の向こうで、弟は決心したように答えた。
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