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こいつからすれば、意味がわからないだろう。
自分を嫌ってる筈の人間が、いきなり態度を変えて、抱き寄せるなんて。
俺は抱き寄せながら、こいつの心を開く為の言葉を口にした。
「……大丈夫だ。もう、大丈夫。安心して、全部出しちまえ」
こいつの弟が言っていた、兄が欲しがるというこの言葉。
限界まで擦り切れた心に響かせるにはちょうどいい甘さを持ったそれは、こいつの心にゆっくりと染み込んでいく。
「……っ、ひぐっ、うあ……ああ」
大粒の涙がこいつの瞳から流れ落ち、嗚咽混じりに声をあげて、泣き出した。
俺の肩は、こいつの涙でじっとりと濡れていく。
俺はそれを不快だとは思わず、ただ動かず、こいつの側にいた。
嗚咽を漏らす度に、ビクリと跳ねる身体。細くなった腕。力の入らない手で、離すまいと俺の服を掴むこいつ。
抱き寄せれば寄せ合うほど、どれだけ小さな存在なのかを思い知らされる。
小さくて脆くて、ボロボロなのにそれでも頑張ったこいつを、俺はずっと抱いていた。
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