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思えば、今俺がしようとしているのはこいつの心の傷口を、更にえぐろうとしている。話したくないだろうし、第一、俺はこいつから見たら赤の他人だ。
他人がこんなにずけずけ聞いていい問題ではなかった。
「悪い、忘れてくれ」
俺が離れようとすると、こいつはぐいっと俺の袖を掴んだ。
「待って、大丈夫。大丈夫だから、少し、待って」
こいつは途切れ途切れに言葉を口にした。
そして、まだ震えている身体を落ち着かせるように、ぎゅっと自分を力を込めて抱きしめる。
しばらくすると、身体の震えが収まり、静かに息をついた。
「……水越君が家の事知ってるって事は、嵐が話したんでしょ?」
初めて聞いた、こいつの、嘘のない言葉。
俺が頷くと、ぎこちなく笑って「嵐に心配かけちゃったなぁ」と呟いた。
「……最初は、普通に家族皆で笑えてたんだ。
嵐の体調もそんなに悪くなかったし、父さんも時間を見つけて遊んでくれて。
何処かに連れて行ってくれなくても、四人でいれたらそれでよかったんだ」
そう話すこいつは、本日に幸せそうで、嘘だらけのいつものこいつが、本当に同じやつなのかわからなくなった。
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