傷痕

19/23
前へ
/272ページ
次へ
 むしろ、苛立っている原因は俺にあった。  俺は、こいつの事を何も知らなかった。  知らないのに、知ろうともしなかったのに、勝手な考えを押し付けて、一方的にこいつを責めた。  こいつをこんなに追い詰めた原因は、こいつの両親でも、弟でも、こいつ自身でもなかった。  間違いなく、俺が追い込んだんだ。  何もできない歯痒さに、俺が拳を強く握っていると、こいつの冷たい手の平がそっと俺の手に触れる。  その時のこいつは、不安げな表情を浮かべていた。 「……水越君、俺、まだ怖いんだ」  こいつの恐怖とはなんだ?  両親に見捨てられることだろうか。  嫌われることだろうか。  一人になることだろうか。 「……お前のこと、一人になんかしないから」  こいつの手を握ってやると、安心したのか笑っていた。  そして、そのままこいつは、意識を失った。
/272ページ

最初のコメントを投稿しよう!

876人が本棚に入れています
本棚に追加