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むしろ、苛立っている原因は俺にあった。
俺は、こいつの事を何も知らなかった。
知らないのに、知ろうともしなかったのに、勝手な考えを押し付けて、一方的にこいつを責めた。
こいつをこんなに追い詰めた原因は、こいつの両親でも、弟でも、こいつ自身でもなかった。
間違いなく、俺が追い込んだんだ。
何もできない歯痒さに、俺が拳を強く握っていると、こいつの冷たい手の平がそっと俺の手に触れる。
その時のこいつは、不安げな表情を浮かべていた。
「……水越君、俺、まだ怖いんだ」
こいつの恐怖とはなんだ?
両親に見捨てられることだろうか。
嫌われることだろうか。
一人になることだろうか。
「……お前のこと、一人になんかしないから」
こいつの手を握ってやると、安心したのか笑っていた。
そして、そのままこいつは、意識を失った。
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