傷痕

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 レモネードを飲み干すと、少し乱暴にカップを置いた。  執事は俺の行動を見て、聞いた。 「どうかされましたか?」  俺はちらりと執事を見る。  白髪混じりの食えない爺。  俺が生まれる前から仕えてるらしく、この家で一番古株。  この爺なら……。 「……馬鹿だった。  何にも知らないのに、あいつの心えぐって、泣かせて。  成り行きであいつ預かったけど、あの家にとって俺は赤の他人なんだ。  他人が口出ししていいと思うか?  それに、あいつを傷つけた俺に、何が出来る?」  俺の言葉に、執事は顎に手を当て考える。  しばらく待っていると、執事がぽつりと呟いた。 「……口出しして何か悪いことでも?」 「は?」  執事の言葉に、俺は呆気にとられた。 「人は皆、自分か他人です。  言ってしまえば、私も他人。  お二人の間に何があったかなんて、私は知りません。  しかし、こうやって口を出しているわけです。  人間、他人に口を出してなんぼですよ。  それに、何をすべきかわからない坊ちゃんではないでしょう?」  まったくこの爺は……。 「……狸爺」 「残念、私は化けれませんよ」  そんなことわかってる。  俺は勢いよく立ち上がり、部屋を出た。  やることは沢山ある。  うじうじしてる場合じゃない。  夏休みに入るんだ。  浅羽の問題に口出ししたなら、最後まで付き合ってやる。
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