傷痕

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 俺がしたことは、それほど多くない。  まずは家で預かる事について、親父達を説得。  親父は快く頷いてくれたし、お袋はもう一人息子が出来たと喜んでいた。  浅羽の家の方は、弟がやってくれたらしい。  次に、あいつの心の傷が癒えるであろう時期に、浅羽の家族との話し合いの場を設けた。  ただそれだけだ。  浅羽の親父さんの会社は、新しく始めた事業が成功したようで、なんとか危機から脱出した。  お袋さんは、徐々に元気になっているそうで、あとは兄の傷が回復するのを待つばかりだ。  しかし、本人の気づかないところで、傷は深く、しばらくはものが食べられない状態だった。  固形物は食べても吐いてしまうし、食べ物を見るだけで体調を崩す程だ。  それでも、少しずつではあるが、流動食のような物を食べてくれるようになった。  特に、執事の作るゼリーは気にいったようで、食欲がなくてもそれだけは食べてくれた。  体力も戻って、少しずつ笑う数も多くなる。  これなら、話し合いの場にも間に合うと思った。  話し合いには参加できなかったが、戻ってきたあいつと、あいつの家族の顔が、柔らかい表情だったことから、成功したことがわかった。
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