ほんとのこと

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学校中を探し回った。 教室。図書館。体育館。裏庭。職員室で先生にも訊いてみたけど、手がかりは得られなかった。 「ここにもいないか……」 僕は校庭に出ていた。 ここにも、委員長の姿はなかった。それどころか、人の姿すらなかった。 校庭の土は昨晩の雨のせいでぬかるんでいる。実際は足が少し沈む程度なのだろうけど、僕にはドロドロの沼地を歩いているように思えてならなかった。 「どこに行ったんだろう……」 連絡を取ろうと携帯を開く。 しかし、電話帳には委員長のメアドも電話番号も登録されていなかった。 そういえば、僕は委員長とメアドや電話番号の交換をしていない。知り合ってからの半年間で、1度も。 もう帰ってしまったのだろうか。 でも、僕は彼女の家を知らない。 帰りに寄るような店も知らない。 放課後になにをしているのかということすら知らない。 彼女の趣味。特技。好きなもの。好きなこと。好きな食べ物。好きな飲み物。 結局のところ、僕は彼女のことについてなにも知らなかったのだ。
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