ほんとのこと

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教室棟の屋上。 彼女が昼休みに案内してくれた所。 誰にも邪魔されることはないから、1人になりたい時なんかにはぴったりだと言っていた、秘密の場所。 もしかしたら、彼女はそこにいるのかも知れない。 僕はぬかるんだ校庭を一気に駆け抜け、教室棟に飛び込んだ。下履きだったけど、そんなことはどうでもいい。 リノリウムの廊下を全速力で走り、階段を2段飛ばしで駆け上がり、屋上に着く頃には、すっかり息が切れていた。 「はあ……はあ……」 乱れた息と鼓動を落ち着かせ、扉のノブを掴む。 鍵は、開いていた。 「委員長!!」 一気にドアを開け放った。 ひらけた視界の正面には落下防止のために設けられたフェンス。左には、遠くに山々が見える。 そして右を向くと――。 「やほー」 委員長の姿があった。 「下履きのまんまなんて、よっぽど急いで来たのね。でも、きっと来てくれるって信じてた」 さっきの激情に駆られた姿なんてどこにもない。 頬には涙の跡すらない。 それどころか、どこか愉快そうな感じで壁に背中を預けて座り、ヒラヒラと手を振っている。 思わず拍子抜けしてしまうぐらい、いつも通りの委員長だった。
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